【40代からのスクワット】その腰痛、原因は「しゃがみ方」かも?体幹を意識したフォームで、しなやかなで機能的な身体へ
メディカルフィットネスM’sには、ご自身の身体と真摯に向き合い、健康的な未来を目指す女性が多くいらっしゃいます。仕事や家庭で忙しい毎日の中でも、時間を作り、フィットネスを生活の一部として取り組む皆様の姿は、私たちトレーナーにとっても大きな励みです。
さて、そんなトレーニング熱心な方々が、キング・オブ・エクササイズとも呼ばれる「スクワット」をしたことがないというケースは稀でしょう。ヒップアップ、代謝向上、姿勢改善…その恩恵は計り知れません。しかし同時に、こんなお悩みを聞くことも少なくありません。
「スクワットをすると、どうも腰が痛い…」
「重量を上げたいのに、腰が不安で挑戦できない」
トレーニング経験を重ねてきたからこそ突き当たる、この「スクワットと腰痛」の問題。実は、多くのトレーニーが陥りがちな罠であり、非常に重要な身体からのサインなのです。
今回のコラムでは、なぜスクワットで腰を痛めてしまうのか、そのメカニズムを解き明かし、根本的な解決策となる「体幹」の本当の役割と、生涯にわたってパフォーマンスを向上させ続けるための「正しいしゃがみ方」について、専門的な視点から解説します。
なぜあなたのスクワットは「腰痛」を引き起こすのか?
スクワットで腰痛が起こる主な原因は、大きく分けて「代償動作(だいしょうどうさ)」にあります。代償動作とは、本来使われるべき筋肉や関節が正しく機能しないために、他の部位がその動きを補おうとして過剰に働いてしまう現象を指します。
1. 股関節・足首の柔軟性不足が引き起こす「バットウィンク(Butt Wink)」
スクワットで深くしゃがんでいく際に、骨盤が後傾し、腰が丸まってしまう現象を「バットウィンク」と呼びます。これが腰痛の最大の原因の一つです。
バットウィンクは、股関節の屈曲(深く曲げる動き)や足首の背屈(つま先をすねに近づける動き)の可動域が制限されている場合に起こりやすくなります。深くしゃがもうとしても股関節や足首がそれ以上動かないため、身体は代償として腰椎(腰の骨)を丸めることで、なんとかしゃがみ込もうとするのです。
重りを担いだ状態で腰椎が丸まると、椎間板の前方に圧迫ストレスが集中し、椎間板ヘルニアなどのリスクを著しく高めてしまいます。40代以降は、長年の生活習慣や姿勢の癖により、自覚がなくとも股関節周りの筋肉が硬くなっているケースが多く見られます。
2. 「体幹」の弱さが招く腰の反りすぎ(過度な前傾)
腰が丸まるのとは逆に、腰を反らしすぎるフォームもまた、腰に大きな負担をかけます。
これは、腹圧を適切にコントロールできず、体幹が不安定になっている証拠です。「体幹を固める」という意識が、単に背中の筋肉(脊柱起立筋)を力ませることだと誤解していると、このフォームに陥りがちです。
腹筋群の力が抜け、背筋群だけで上半身を支えようとすると、腰椎は過剰に反ってしまいます(腰椎過前弯)。この状態では、腰椎の椎間関節に過度な圧迫力がかかり、脊柱分離症やすべり症といった障害の原因となりかねません。特に女性は、男性に比べて骨盤が前傾しやすく、元々反り腰の傾向があるため、より一層の注意が必要です。

3. 膝のブレ(Knee-in)と連動する骨盤の不安定性
しゃがむ、あるいは立ち上がる際に、膝が内側に入ってしまう「ニーイン(Knee-in)」も、巡り巡って腰痛の原因となります。
ニーインの主な原因は、お尻の横にある中殿筋の筋力不足や機能不全です。中殿筋は、股関節を外転(脚を外に開く)させ、骨盤を安定させる重要な役割を担っています。この筋肉が弱いと、スクワット動作中に膝が内側に入り、股関節や骨盤が不安定になります。その結果、骨盤の歪みやねじれが生じ、腰椎や仙腸関節にまで負担が波及してしまうのです。
腰痛改善の鍵は「インナーユニット」と「ヒップヒンジ」にあり
では、これらの問題を根本から解決し、安全で効果的なスクワットを実践するためにはどうすれば良いのでしょうか。その答えは、「体幹(インナーユニット)の覚醒」と「股関節主導の正しいしゃがみ方(ヒップヒンジ)の習得」にあります。
1. 天然のコルセット「インナーユニット」を機能させる
一般的に「体幹」というと、腹筋運動で鍛えるアウターマッスル(腹直筋など)をイメージしがちですが、ここで言う体幹とは、より深層にある「インナーユニット」を指します。
<インナーユニットの構成要素>
● 横隔膜(上部): 呼吸を司るドーム状の筋肉
● 腹横筋(前面〜側面): お腹周りをコルセットのように包む深層の腹筋
● 多裂筋(背面): 背骨の一つ一つに付着する姿勢維持筋
● 骨盤底筋群(下部): 骨盤の底で内臓を支える筋肉群
これら4つの筋肉が協調して働くことで、腹腔内の圧力、すなわち「腹圧(IAP: Intra-Abdominal Pressure)」が高まります。適切に高められた腹圧は、背骨を内側から支える「天然のコルセット」となり、腰椎を安定させ、外部からの負荷を効率的に分散してくれるのです。
腰を反らして背筋を固めるのではなく、息を吸ってお腹を360度全方向に膨らませ、その圧を保ったまま動作を行う。この感覚こそが、インナーユニットが正しく機能している証拠です。
【インナーユニット活性化エクササイズ:デッドバグ】

1.仰向けになり、両膝を90度に曲げて持ち上げます。両腕は天井に向けて伸ばします。
2.腰と床の間に隙間ができないよう、軽くお腹に力を入れ、腹圧を高めます(腰で床を軽く押すイメージ)。
3.その腹圧をキープしたまま、対角線上の手と足(右手と左足など)を、床につかないギリギリまでゆっくりと下ろしていきます。
4.動作中、腰が反ったり、お腹がポコッと抜けたりしないようにコントロールし、ゆっくりと元の位置に戻ります。
5.反対側も同様に行い、これを繰り返します。
このエクササイズは、手足の動き(負荷)に対して、体幹を安定させ続ける能力を養うのに非常に効果的です。
2. 「しゃがみ方」の常識を変える「ヒップヒンジ」
腰痛なくスクワットを行うためのもう一つの鍵が、「ヒップヒンジ」という股関節主導の動きです。これは、膝から曲げ始めるのではなく、股関節(脚の付け根)を蝶番(ヒンジ)のように折り曲げ、お尻を後方に引くことから動作を始めるしゃがみ方です。
<ヒップヒンジのメリット>
- 負荷の分散:
バットウィンク(代償動作)が抑制され、しゃがむという動作の際に膝や腰への過剰な負担を防ぐことが出来ます。 - 脊柱の中立維持:
しゃがむ際に股関節を適切に動かすことによって、背骨は真っ直ぐな状態(中立位)を保ちやすくなるため、腰へのストレスが激減します。 - パフォーマンス向上:
強力な殿筋群を動員できるため、より重い重量を扱えるようになり、トレーニングにおけるパフォーマンスの向上しが見込めます。
【ヒップヒンジ習得エクササイズ:ウォール・ヒップヒンジ】

1.壁から足1〜2足分離れて、壁に背を向けて立ちます。足幅は腰幅程度に。
2.膝は軽く曲げた状態をキープし、背筋を伸ばしたまま、股関節から身体を折り曲げ、お尻で壁をタッチしにいきます。
3.お尻が壁に触れたら、ゆっくりと元の姿勢に戻ります。
4.この時、腰が丸まったり、膝が過剰に前に出たりしないように注意します。あくまで「股関節を折りたたむ」意識で行うことが重要です。
今回は割愛しますが、この動きがスムーズにできるようになったら、次は軽い重りを持って行う「ルーマニアンデッドリフト」や、胸の前でケトルベルを持つ「ゴブレットスクワット」に進むと、より実践的なフォームが身につきます。ゴブレットスクワットは、前方に重りがあることでカウンターバランスが働き、自然と体幹に力が入り、正しいフォームを誘導してくれるため特におすすめです。
まとめ:身体と対話し、生涯輝き続けるために
スクワットで生じる腰痛は、単なる不快な症状ではなく、あなたの身体の使い方や機能性に改善の余地があることを教えてくれる貴重なサインです。特に、身体の変化を感じやすい40代、50代というステージにおいて、このサインに真摯に耳を傾け、動きの質を見直すことは、今後のトレーニングを、そして日常生活そのものを、より豊かで快適なものにするための重要な投資となります。
今回ご紹介した「インナーユニットの活性化」と「ヒップヒンジの習得」は、単に腰痛を防ぐだけでなく、あなたの身体が本来持つポテンシャルを最大限に引き出し、よりしなやかで力強い、機能的な身体へと繋がります。
(文/辻)