2025-07-23

40・50代のための「運動で乗り越える高血圧」

「最近、健康診断で血圧が高めと言われた」「親が高血圧なので自分も心配」

40・50代の方は、このようなお悩みをお持ちではないでしょうか? この年代は、生活習慣病のリスクが顕在化しやすい時期でもあります。特に高血圧は、自覚症状が少ないまま進行し、心筋梗塞や脳卒中といった深刻な病気の引き金となるため、「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれています。

しかし、高血圧は適切な対策を講じることで、そのリスクを大幅に軽減できます。そして、効果的かつ身近な方法の一つが運動習慣です。40代・50代の方々が高血圧と向き合い、健康寿命を延ばすために、運動の重要性と具体的な実践方法について詳しく解説します。

血圧の正常値と高血圧の基準値

診察室血圧家庭血圧
正常値130/90mmHg以下125/75mmHg以下
高血圧の基準値140/90mmHg以上135/85mmHg以上
日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019

なぜ40・50代は高血圧になりやすいのか?

40・50代になると、身体にはいくつかの変化が起こり、高血圧のリスクが高まります。

血管の老化(動脈硬化の進行):加齢とともに血管の弾力性が失われ、硬くなります。特に大動脈や主要な動脈の弾力性が低下すると、心臓が血液を送り出す際に高い圧力を必要とし、収縮期血圧(上の血圧)が上昇しやすくなります。

肥満の増加:代謝が低下し、活動量が減ることで、内臓脂肪が増加しやすくなります。内臓脂肪の蓄積は、レニン・アンジオテンシン系の活性化やインスリン抵抗性の増大を通じて血圧を上昇させることが知られています。

自律神経のバランスの乱れ:ストレスや不規則な生活により、血圧を上げる交感神経が優位になりやすくなります。これにより、血管が収縮し、心拍数が増加し、持続的に血圧が高くなることがあります。

ホルモンバランスの変化:女性では閉経に伴うエストロゲンの減少が、男性ではテストステロンの減少が、血管機能や脂質代謝に影響を与え、高血圧のリスクを高める可能性が指摘されています。

生活習慣の積み重ね:長年の飲酒、喫煙、塩分過多の食生活、運動不足などが、この年代で高血圧として顕在化することが多いです。

運動が高血圧に与える影響

運動が高血圧の改善に有効であることは、数多くの臨床研究で裏付けられています。そのメカニズムは多岐にわたります。

血管内皮機能の改善

運動は、血管の内側を覆う血管内皮細胞から一酸化窒素(NO)の産生を促進します。NOは強力な血管拡張作用を持ち、血管を柔らかくし、血流をスムーズにすることで、血圧を下げます。これは、運動によるせん断応力(血液の流れが血管壁に与える力)が増加することで、内皮細胞が刺激されるためと考えられています。

末梢血管抵抗の減少

継続的な運動は、細動脈などの末梢血管の収縮を抑制し、血管の抵抗を減らします。これにより、心臓が血液を送り出す際の負担が軽減され、血圧が下降します。

自律神経系の調整

定期的な有酸素運動は、血圧を上げる交感神経の活動を抑制し、血圧を下げる副交感神経の活動を優位にします。これにより、心拍数や血管の緊張が適切にコントロールされ、安静時血圧が低下します。

レニン・アンジオテンシン系の抑制

運動は、血圧を上げる主要なホルモン系であるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の活性を抑制する効果があります。特にレニンの分泌を抑えることで、アンジオテンシンIIの生成が減少し、血管収縮や水分・ナトリウム貯留が抑制されます。

インスリン抵抗性の改善と肥満の解消

運動は、筋肉での糖の取り込みを促進し、インスリン抵抗性を改善します。インスリン抵抗性は高血圧と密接に関連しており、その改善は血圧低下に繋がります。また、運動は体脂肪、特に内臓脂肪を減らす効果があり、肥満の解消が高血圧の改善に大きく寄与します。

酸化ストレスの軽減

高血圧は血管の酸化ストレスを増加させ、血管機能障害を引き起こします。適度な運動は、抗酸化酵素の活性を高め、酸化ストレスを軽減することで、血管保護作用を発揮し、血圧を安定させます。

推奨される運動の種類と強度・頻度

高血圧の予防・改善には、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることが推奨されます。

有酸素運動

・目的:血管内皮機能の改善、自律神経の調整、肥満解消。
・種類:ウォーキング、軽いジョギング、サイクリング、水泳、水中ウォーキング、アクアビクスなど
・強度:「ややきつい」と感じる程度の強度(ボルグスケールで11~13程度)。具体的には、軽く汗ばみ、隣の人と会話はできるが、歌を歌うのは難しいくらいのペースが目安です。
脈拍数で言うと、最大心拍数(220-年齢)の50~70%程度を目指しましょう。
(例:50歳の方の場合、最大心拍数170拍/分、目標心拍数85~119拍/分)

指数自覚的運動強度
20もう限界
19非常につらい
18
17かなりつらい
16
15つらい
14
13ややつらい
12
11楽である
10
9かなり楽である
8
7非常に楽である
6
ボルグスケール:主観的運動強度(RPE:rating of perceived exertion)

・時間:1回あたり30分以上。10分以上の運動を複数回に分けて合計30分以上でも構いません。例えば、朝15分、夕方15分といった形でも効果が期待できます。
・頻度: 週に3~5回。できれば毎日続けることが理想的ですが、まずは週3回からでも継続することが重要です。

筋力トレーニング(レジスタンス運動)

・目的:基礎代謝の向上、筋力維持、インスリン抵抗性の改善。
・種類:スクワットなどダンベルや重りを用いた軽いトレーニングやジムでのマシンエクササイズなど。
・強度: 「ややきつい」と感じる強度で、10~15回程度反復できる重さ・回数。
・回数: 1セット10~15回を2~3セット。
・頻度: 週に2~3回。

注意点:筋力トレーニング中は、息を止めないように注意してください。息をこらえると一時的に血圧が急上昇し、危険を伴う場合があります。ゆっくりと呼吸しながら行うことが重要です。高血圧が重度の場合は、医師と相談の上、専門家の指導を受けることをお勧めします。

運動習慣を継続するためのヒント

どの年代でも運動を継続することは容易ではありません。しかし、ちょっとした工夫で習慣化できます。

日常生活に取り入れる

エレベーターやエスカレーターを使わず階段を使う、一駅分歩く、通勤時に少し遠回りをするなど、日常生活の中で意識的に体を動かす機会を増やしましょう。

記録をつける

運動した日時、内容、時間、その日の体調などを記録する習慣をつけると、達成感が得られ、モチベーション維持に繋がります。最近ではスマートウォッチやスマホアプリも活用できます。

仲間や楽しみをつくる

家族や友人と一緒にウォーキングやスポーツを楽しむことで、継続しやすくなります。また、 好きな音楽を聴きながらウォーキングをする、美しい景色を楽しみながらサイクリングをするなど、運動自体を楽しいものにすることで、ストレスなく続けられます。

目標を設定し、成果を実感する。

「月に〇km歩く」「〇kg減量する」など、具体的な目標を設定すると、達成意欲が高まります。ただし、目標は現実的で達成可能な範囲に設定しましょう。
運動を続けると、血圧の数値だけでなく、体重の減少、睡眠の質の向上、ストレス軽減など、様々な良い変化が現れます。これらの変化を実感することで、さらにモチベーションが高まります。

まとめ

40・50代は、生活習慣を見直すことで、その後の人生の健康寿命を大きく左右する大切な時期です。高血圧は放置すると命に関わる病気を引き起こしますが、適切な運動習慣と生活習慣の改善によって、十分にコントロール可能です。
医学的にも、適度な有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせは、血圧降下作用、血管機能改善、自律神経調整、体重管理など、多岐にわたる効果が期待されます。
今日から少しずつでも、ご自身のペースで運動を生活に取り入れてみませんか? そして、運動だけでなく、食生活や睡眠、ストレス管理といった生活習慣全体を見直すことで、より健康で充実した生活を手に入れましょう。

(文/小山七海)

<参考文献>
・「高血圧治療ガイドライン2025」/日本高血圧学会
・「健康日本21(第二次)」/厚生労働省
・American College of Cardiology (ACC)/American Heart Association (AHA)
 ”2017 ACC/AHA Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults.”
・「運動処方ガイドライン」/日本臨床スポーツ医学会

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