「食べたら太る」はもう古い!「まごわやさしい」で体の中から変わる、賢いダイエット法
ダイエットと聞くと、多くの人が「食事制限」や「つらい空腹感」を想像するのではないでしょうか。「食べたら太る」という不安から、極端に食事量を減らしたり、特定の食材を完全に抜いたりする人も少なくありません。しかし、その考え方は、あなたのダイエットを停滞させ、むしろリバウンドしやすい体を作ってしまう原因になっているかもしれません。

本当の健康的なダイエットとは、ただ体重を減らすことではありません。体脂肪を効率よく燃焼させ、筋肉を維持・増強し、心身ともに健康でいることが重要です。そして、その鍵を握る「何を食べるか」の重要性を理解すれば、無理なく、そして美味しく、科学的根拠に基づいて理想の自分に近づくことができるでしょう。
なぜ「しっかり食べる」ことがダイエット成功の鍵なのか?
「食べたら太る」という不安を払拭し、なぜダイエット中でも「しっかり食べる」べきなのか、その理由を深掘りしていきましょう。
1. 代謝の低下を防ぎ、エネルギー消費を維持するため
私たちの体は、食べたものからエネルギーを得て、生命活動を維持しています。このエネルギーを生み出す仕組みを「代謝」と呼びます。極端な食事制限は、体に必要なエネルギーが供給されない状態を引き起こし、体が「飢餓状態」であると認識してしまいます。これに対し、体は生命維持のために代謝を落とし、エネルギー消費を抑えようとします。これは、進化の過程で獲得した体の防衛反応であり、「省エネモード」への移行を意味します (Dulloo & Montani, 2015)。
この結果、食事を減らしても体がエネルギーを使わないモードになってしまうため、痩せにくくなるのです。特に、筋肉の維持や新しい細胞の生成には、タンパク質やビタミン、ミネラルといった栄養素が不可欠です。これらが不足すると、肌や髪のターンオーバーが滞るなど、美容面でも悪影響が出てしまいます。
2. 筋肉量を維持し、基礎代謝を高く保つため
ダイエットの最終目標は、体重を減らすことではなく、体脂肪を減らし、健康的で引き締まった体になること。筋肉は、何もしなくてもエネルギーを消費してくれる「基礎代謝」の大部分を占めています。筋肉量が多いほど基礎代謝が高くなり、日常的に消費されるカロリーが増えるため、痩せやすい体になります (McLean & Pica, 2017)。
しかし、栄養が不足した状態で食事制限をすると、体はエネルギー源として脂肪だけでなく、筋肉を分解して利用し始めてしまいます。これは、特にタンパク質の摂取が不足している場合に顕著です (Pasiakos et al., 2015)。筋肉が減れば基礎代謝が落ち、結果としてリバウンドしやすい体になってしまうのです。良質なタンパク質をしっかり摂ることは、筋肉の維持・増強に欠かせません。また、糖質や脂質をエネルギーに変換する代謝のサポート役となるビタミンB群やミネラルも、食事からしっかり摂ることで、食べたものを効率的に脂肪として蓄えるのではなく、エネルギーとして燃やせる体になります。
3. 食欲をコントロールするホルモンバランスを整えるため
私たちの食欲は、脳内の様々なホルモンによってコントロールされています。例えば、食欲を増進させる「グレリン」や、満腹感を与える「レプチン」などです。極端な食事制限は、これらのホルモンバランスを崩し、特にグレリンの増加やレプチンの減少を引き起こし、食欲を異常に高めてしまうことがあります (Klöting & Blüher, 2014)。
その結果、耐えきれずにドカ食いをしてしまったり、無性に甘いものや脂っこいものを求めてしまったりと、「暴食」を誘発しかねません。このようなサイクルは、ダイエットの失敗だけでなく、精神的なストレスにもつながります。
食事から食物繊維を豊富に摂ることは、血糖値の急激な上昇を抑え、インスリンの過剰な分泌を防ぐことで、脂肪の蓄積を抑制し、満腹感を長く維持する効果が期待できます (Slavin, 2013)。精神的な安定を保つためにも、必要な栄養素をしっかり摂ることは非常に重要です。
4. 腸内環境を整え、全身の代謝をスムーズにするため
最近の研究で、腸内環境がダイエットに大きな影響を与えることが分かっています。腸内には、善玉菌、悪玉菌、日和見菌が存在し、そのバランスが私たちの健康状態を左右します。腸内環境が良好であると、栄養素の吸収率が向上し、その栄養素を効率よく利用できます。また、便秘解消により老廃物の排出がスムーズになり、体がスッキリします。
さらに、腸内細菌は食物繊維などを発酵させることで短鎖脂肪酸を生成し、これが腸管ホルモンや肝臓の代謝に影響を与え、代謝を活性化させる効果が期待されています (De Vadder et al., 2014)。免疫力の向上や、食欲抑制に関わるホルモンの分泌がスムーズになることも示唆されており、腸内環境を整えることはダイエットの強い味方となります。
「まごわやさしい」で体の中から変わる!しっかり食べる賢いダイエット術
ここまでで、「しっかり食べる」ことの重要性を理解いただけたと思います。では、具体的に「何を」しっかり食べればよいのか?そこで役立つのが、昔ながらの和食の知恵が詰まった「まごわやさしい」という合言葉です。これは、健康的な食生活を送るために意識したい7つの食材の頭文字を並べたもので、バランスの取れた食事の指針となるでしょう。
①ま:豆類(豆腐、納豆、味噌など)
- 低カロリーで高タンパク質。筋肉の維持・増強に不可欠で、代謝アップに貢献します。食物繊維も豊富で満腹感が持続しやすいです (Messina, 2014)。
- ダイエット活用術:ご飯の量を減らす代わりに、納豆や豆腐を積極的に取り入れましょう。
②ご:ごま(ナッツ類、種子類も含む)
- 良質な不飽和脂肪酸(オメガ3、オメガ6)や抗酸化作用の強いセサミンが豊富。代謝のサポートや細胞の健康維持に役立ちます。ビタミンEやミネラルも豊富です (Namiki, 2007)。
- ダイエット活用術:和え物やサラダに少量のごまをプラス。ナッツ類は、小腹が空いた時のおやつに少量(片手いっぱい程度)を。
③わ:わかめ(海藻類全般)
- 食物繊維が豊富で、腸内環境を整え、便通改善に役立ちます。ミネラルも豊富で、むくみ改善や代謝アップにも貢献。低カロリーでかさ増しに最適です (Kim & Kim, 2010)。
- ダイエット活用術:味噌汁の具、サラダ、酢の物など、毎食取り入れましょう。
④や:野菜(緑黄色野菜、淡色野菜)
- ビタミン、ミネラル、食物繊維、ファイトケミカルの宝庫。代謝を助け、体の調子を整える「潤滑油」です。カロリーが低く、ダイエット中の満足感を高めます (Liu, 2013)。
- ダイエット活用術:毎食、両手に山盛り一杯の野菜を目標に。食事の最初に野菜を食べる「ベジファースト」で血糖値の急上昇を抑えましょう。
⑤さ:魚(青魚、白身魚、鮭など)
- 良質な動物性タンパク質源であり、DHA・EPAといったオメガ3系不飽和脂肪酸が豊富。体脂肪の燃焼促進や炎症抑制効果も期待されます (Ruxton et al., 2012)。
- ダイエット活用術:週に2~3回は魚料理を食卓に。肉料理よりもヘルシーにタンパク質を補給できます。
⑥し:しいたけ(きのこ類全般)
- 食物繊維が豊富で、腸内環境の改善と満腹感に貢献。低カロリーでダイエット中の食事のかさ増しに最適です。ビタミンDも豊富で免疫力アップにも (Mattila et al., 2002)。
- ダイエット活用術:汁物、炒め物、鍋物など、様々な料理にボリュームアップのために活用しましょう。
⑦い:いも類(じゃがいも、さつまいも、里芋など)
- 主食としての炭水化物源ですが、食物繊維が豊富で血糖値の上昇が緩やか。腹持ちが良く、ダイエット中の空腹感を和らげます (Lattimer & Haub, 2010)。
- ダイエット活用術:ご飯やパンの一部をいも類に置き換えるのもおすすめです。揚げ物ではなく、蒸したり焼いたりする調理法で。
ダイエットを成功させるための追加ヒント
「まごわやさしい」の食事をベースに、以下の点も意識することで、より効果的にダイエットを進めることができます。
- ゆっくりよく噛んで食べる:満腹中枢が刺激され、少量でも満足感を得やすくなります (Zhu & Hollis, 2014)。
- 水分をしっかり摂る:代謝を促し、老廃物の排出を助けます。食前や食事中に水を飲むことで、食べ過ぎを防ぐ効果も (Boschmann & Jordan, 2003)。
- 加工食品や市販の惣菜を控える:これらには、糖分、塩分、脂質、添加物が多く含まれており、腸内環境の悪化や代謝の妨げになる可能性があります。できるだけ自炊を心がけましょう。
- 無理な食事制限はしない:「食べたいものを我慢しすぎる」ダイエットは長続きしません。たまには好きなものを食べる「チートデイ」を設けるなど、メリハリをつけることも大切です。
- 適度な運動を取り入れる:食事だけでなく、ウォーキングや軽い筋トレなどの運動を組み合わせることで、筋肉量が増え、基礎代謝がさらにアップし、健康的で引き締まった体を目指せます (Strasser & Spreitzer, 2019)。
- 睡眠をしっかりとる:睡眠不足は食欲を増進させるホルモン(グレリン)を増やし、代謝を低下させる原因になります。質の良い睡眠はダイエットの強い味方です (Taheri et al., 2004)。

まとめ:賢く食べて、理想の自分へ
ダイエット中の方は「食べたら太る」という不安に陥りがちです。しかし、「体に必要な栄養をしっかり摂る」という視点を持つことが、健康的なダイエット成功への第一歩です。
食事はただ単に空腹を満たすものではなく、あなたの体を作り、動かすための大切な燃料です。栄養バランスの取れた「まごわやさしい」の食事を意識し、賢く食べて、代謝を上げることで体の中から輝く理想の自分を目指すことができます。
今日からあなたの「食べる」ことへの意識、変えていきましょう!
(文/坂内悠)
参照:
- Boschmann, M., & Jordan, J. (2003). Water drinking induces thermogenesis in humans. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 88(12), 6015-6019.
- De Vadder, F., Kovatcheva-Datchary, P., Goncalves, D., Vinera, J., Zitoun, F., Duchampt, A., Bäckhed, F., & Mithieux, G. (2014). Microbiota-generated metabolites promote metabolic benefits via intestinal gluconeogenesis. Cell, 156(1-2), 84-96.
- Dulloo, A. G., & Montani, J. P. (2015). Pathways from weight cycling to metabolic complications. Obesity Reviews, 16(Suppl 1), 7-14.
- Kim, S. K., & Kim, Y. T. (2010). Antioxidant and anti-inflammatory activities of seaweeds and their bioactive compounds: An overview. Food Science and Biotechnology, 19(3), 819-835.
- Klöting, N., & Blüher, M. (2014). Adipocyte dysfunction, inflammation, and metabolic syndrome. Reviews in Endocrine and Metabolic Disorders, 15(4), 2183-294.
- Lattimer, J. M., & Haub, M. D. (2010). Effects of dietary fiber and its components on metabolic health. Nutrients, 2(12), 1220-1232.
- Liu, R. H. (2013). Health benefits of fruit and vegetables are from additive and synergistic combinations of phytochemicals. The American Journal of Clinical Nutrition, 78(3), 517S-5220S.
- Mattila, P., Salo-Väänänen, P., Könkö, K., Aro, H., & Jalava, T. (2002). Vitamin D content of edible mushrooms. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 50(23), 6411-6415.
- McLean, K. L., & Pica, A. (2017). The role of basal metabolic rate in weight loss and maintenance. Journal of Strength and Conditioning Research, 31(12), 3462-3467.
- Messina, V. (2014). Nutritional and health benefits of dried beans. The American Journal of Clinical Nutrition, 100(Suppl 1), 4373S-442S.
- Namiki, M. (2007). The chemistry and physiological functions of sesame. Food Reviews International, 23(3), 323-339.
- Pasiakos, S. M., Cao, J. J., Margolis, L. M., Sauter, E. R., Whigham, L. D., McClung, J. P., Rood, J. C., Carbone, J. W., Merrill, E. V., & Mitmesser, S. H. (2015). Effects of high-protein diets on fat-free mass and muscle protein synthesis following weight loss: A randomized controlled trial. FASEB Journal, 29(9), 3848-3857.
- Ruxton, C. H. S., Reed, S. C., McGowan, L., & Forey, S. (2012). The effects of fish oil on body composition and weight loss: A systematic review. Journal of Human Nutrition and Dietetics, 25(6), 578-587.
- Slavin, J. (2013). Fiber and prebiotics: Mechanisms and health benefits. Nutrients, 5(4), 1417-1438.
- Strasser, B., & Spreitzer, A. (2019). Aerobic exercise training and body composition in adults: A meta-analysis. International Journal of Environmental Research and Public Health, 16(23), 4892.
- Taheri, S., Lin, L., Austin, D., Young, T., & Mignot, E. (2004). Short sleep duration is associated with reduced leptin, elevated ghrelin, and increased body mass in4dex. PLoS Medicine, 1(3), 5e62.
Zhu, Y., & Hollis, J. H. (2014). Effect of mastication on food intake, saliva secretion and satiety in young adults. Appetite, 83, 168-173.