スクワットの膝はつま先より前に出てはいけない？

「つま先より膝が前に出ないように！」
スクワット系のエクササイズで、このような指摘をトレーナーやインストラクターから受けたことはありませんか？こちらのワードはトレーニング指導現場では当たり前のように使われていますが、なぜ膝が前に出るといけないのでしょうか？

そう言われているからそうなんだろうとあまり気にしないよという方も多いかもしれませんが、今回はこちらのワードについてちょっとだけ深掘りをしてみたいと思います。

膝がつま先よりも前に出ている状態とは？

写真①のような状態が膝がつま先よりも前に出ている状態です。

通常、クウォータースクワット（膝関節が120°ぐらいまで曲げるスクワット/写真②）ぐらいまでは膝がつま先よりも前に出ることは少ないですが、ハーフスクワット（膝関節を90°ぐらいまで曲げるスクワット/写真③）ぐらいから膝がつま先よりも前に出ることがあります。

パラレルスクワット（太ももが床と平行になるぐらいまでしゃがむスクワット/写真①）ぐらいの深さまでしゃがんでいくと膝は基本的につま先よりもやや前に出ます。

つまり、深くしゃがむスクワットになるほど、通常膝はつま先よりも前に出るような形となります。

膝がつま先よりも前に出ないようにしようとすると、スクワットでしゃがむ深さを浅めにするか、お尻を引いて上体を前傾させるという方法をとる形になります（写真④）。あまり膝関節を使わずに股関節を主に使うような動きになります。

膝がつま先よりも前に出ると何が悪い？

スクワット時のつま先と膝関節の位置関係によって、膝関節にかかる負荷は変化します。少し極端ですが、以下のようなイメージです。

• 膝がつま先より前に出る ⇒ 膝関節への負荷↑↑、股関節・腰椎部への負荷↓↓

• 膝がつま先より前に出ない ⇒ 膝関節への負荷↓↓、股関節・腰椎部への負荷↑↑

上記のように、膝がつま先より前に出ると膝関節への負荷が増えます。これが膝がつま先よりも前に出ると悪いする主な理由ではないかと思います。

では、本当にスクワットでは膝はつま先よりも前に出ないように行う方がいいのでしょうか？

膝はつま先より前に出てはいけないのか？

例えば、膝に特に問題がなく、スクワットで太もも前の大腿四頭筋を鍛えたい場合はどうでしょうか？膝がつま先よりも前に出ないようにスクワットをしていると、膝関節部への負担、つまり負荷は小さくなります。この場合、大腿四頭筋を鍛えるという目的に対しては非効率ということになるかもしれません。

また、バーベルを首の後ろで担いだスクワット（バックスクワット）で、ハイバーポジションという肩の上にバーベルを担いだ状態でのスクワットでは、自然なフォームでスクワットを行えば膝はつま先よりも多少前に出ます。膝を前に出さないようにすると、上体を前に倒す形となり、上記でも記載した通り股関節・腰椎部への負荷が増し、腰を痛めかねない不適切なフォームになるかもしれません。

逆に、高齢の方で膝関節が変形しており、スクワット時に膝がつま先よりも前に出ると痛みを伴うが、膝がつま先よりも前に出なければ痛みを伴わないというような場合はどうでしょうか？他のエクササイズを検討するのも一つですが、つま先よりも膝が前に出ないように行うスクワットも一つの選択肢かもしれません。

他にも、スクワットを行う際に膝が前に過剰に出てしまうようなフォームになってしまう場合、それを修正するために膝がつま先よりも前に出ないようにと意識することは必要なことかもしれません。

膝がつま先よりも前に出ないほうが良いかどうか、その答えとしてはケースバイケースです。

まとめ

スクワットを行う目的は何か、スクワットでバーを担ぐポジションはどこか、そして個別性を考慮した際に膝とつま先の最適な位置関係は異なってきます。その人の大腿骨（太ももの骨）や脛骨（すねの骨）の長さなどによっても変化します。

実際にAさんには膝はつま先よりも前に出さないようにということもあれば、Bさんにはつま先よりも膝が前に出てもいいですよと言うこともあります。「Aさんにはこう言っていたのに」となるかもしれませんが、スクワット＝膝はつま先よりも前に出ないようにというように一括りにはできないものですので、あしからず。

（文/辻弦）

参考文献

The Limitations of Anterior Knee Displacement during Different Barbell Squat Techniques: A Comprehensive Review, Gabriel Illmeier, J. Clin. Med. 2023, 12(8), 2955