夏の不調を乗り切る!食欲減退のメカニズムと日本の食文化から学ぶ解決策

毎年夏になると、「食欲がない」「体がだるい」「疲れがとれない」と感じる方は少なくありません。これは多くの人が経験する「夏バテ」の典型的な症状であり、実際に夏バテを感じた人の約7割が食欲不振を具体的な症状として挙げています 。しかし、食欲がないからといって食事を抜いたり、偏った食事を続けたりすることは、単なる一時的な不快感に留まらず、体に必要な栄養素の不足に直結し、疲れやすさや免疫力の低下、さらには精神的な不調へと連鎖する負のサイクルを生み出す可能性があります 。元気な夏を過ごすためには、暑い日でも栄養をしっかり摂ることが非常に大切です 。この記事では、夏の不調のメカニズムを解き明かし、その具体的な改善策をご紹介します。
夏の食欲不振と胃腸機能低下のメカニズム
夏の食欲不振と胃腸機能の低下は、主に以下の二つの要素が複合的に作用することで引き起こされます。
自律神経の乱れが胃腸に与える影響
夏の高温環境と冷房の効いた屋内との頻繁な行き来は、私たちの体温調節を担う自律神経(交感神経と副交感神経)に大きなストレスを与え、そのバランスを乱します。自律神経は、体温調節だけでなく胃腸の働きも制御しています。このバランスが崩れると、特に交感神経が強く働くようになり、胃の血管が収縮して粘膜への血流量が減少し、消化物を送る「蠕動(ぜんどう)運動」の低下や、胃の粘膜を保護する「粘液の分泌減少」を招きます 。これにより胃の働きが全体的に低下し、食欲不振や胃もたれといった症状、いわゆる「胃バテ」が引き起こされるのです。
冷たい飲食物の過剰摂取が引き起こす胃腸の冷えと消化機能の低下
暑いからといって冷たい食べ物や飲み物ばかりを過剰に摂取すると、胃腸が直接冷やされてしまいます。胃腸は体温に近い37度前後で最も活発に働くため、冷えは消化酵素の働きを著しく弱め、消化吸収能力を低下させます。その結果、食べたものが適切に消化吸収されず、食欲がさらにわかなくなる悪循環に陥りやすくなります。胃腸の機能が低下した「胃腸バテ」の状態では、胃もたれや消化不良、お腹の張り、下痢などの便通異常を引き起こすこともあります。

このように、夏の食欲不振は自律神経の乱れによる胃腸機能の低下と冷たい飲食物の摂りすぎによる胃腸の冷えが相互に悪影響を及ぼし合うことで加速されます。胃腸が既に弱っているところにさらに冷たいものを過剰に摂取すると、胃腸への負担が倍増し、不調がより深刻になるのです。さらに、夏の暑さ自体が身体へのストレスとなるほか、睡眠の質の低下や現代社会における精神的なストレスも自律神経の乱れを助長し、食欲不振の一因となります。
夏にたんぱく質が不足しがちになる理由とその影響
夏の食欲減退は、単に食事量が減るだけでなく、食事内容の質的な変化を引き起こし、特にたんぱく質不足を招きやすくなります。
食欲減退による食事量の減少と、さっぱりした食事への偏り
夏は食欲が減退し、全体的な食事量が減少する傾向にあります。暑さから、冷たい麺類(そうめん、冷やし中華など)やゼリー、アイスクリームといった口当たりの良い、さっぱりとした食事ばかりを選びがちになります。これらの食事は手軽ですが、炭水化物に偏りやすく、肉や魚といった主要なたんぱく質源の摂取が不足しやすい傾向があります。この「さっぱり志向」の食事が、意識しないうちにたんぱく質だけでなく、他の重要な栄養素の不足も招いているのです。

たんぱく質不足が体力、免疫力、精神状態に及ぼす影響
たんぱく質は、筋肉、臓器、皮膚など、人間の体の主要な構成材料であり、ホルモン、酵素、抗体などの生命活動に不可欠な成分でもあります。たんぱく質が不足すると、筋肉量の低下を招き、基礎代謝や体内で熱を生み出す力が落ち、疲れやすい体になります。さらに、疲労回復が遅れ、免疫機能が低下し、夏風邪をはじめとする感染症にかかりやすくなる原因にもなります。
また、精神の安定に関わるセロトニンや、意欲に関わるドーパミンといった神経伝達物質もたんぱく質を構成成分とするため、不足はメンタル面にも悪影響を及ぼし、気力の低下やイライラにつながることがあります。夏の栄養不足は単なるカロリー不足ではなく、特定の重要な栄養素(特にたんぱく質)の「質的な不足」が問題の本質であり、これが夏バテの主要症状である「だるさ」や「疲れ」を直接悪化させるだけでなく、免疫力低下による感染症リスク増加や精神的な不調にもつながるという、より広範で深刻な影響を与える可能性があります。
夏に特に消耗しやすいその他の栄養素
大量の発汗により、糖質をエネルギーに変換したり、疲労回復に不可欠なビタミンB1が不足しやすくなります。特に炭水化物中心の食事が増える夏にこそ、ビタミンB1が不足しやすいという皮肉な連鎖があります。また、暑さによる身体的ストレスや、心理的ストレスによって、抗酸化作用やストレス緩和、鉄の吸収に重要なビタミンCも大量に消耗されます。汗とともに体外へ排出されやすいミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛など)も、夏の時期は特に意識的な補給が重要です。
日本の食文化に学ぶ!夏バテ改善のための食事介入法
夏の不調を乗り切るためには、単に「量を食べる」だけでなく、「質の良い栄養素を効率的に、バランス良く摂る」ことに焦点を当てた工夫が必要です。日本の食文化には、夏バテを乗り切るための知恵が詰まっています。
胃腸に優しい食事の基本と工夫
胃腸が弱っている夏は、消化に負担をかけない食事が基本です。
- 温かい料理を取り入れる: 冷たいものの摂りすぎは胃腸を冷やし、消化機能を低下させるため、温かいスープや味噌汁、煮物などを意識的に取り入れ、胃腸を温めることが重要です。
- 消化しやすい調理法を選ぶ: 脂肪分の少ない食材(鶏むね肉、豆腐、魚介類など)を選び、煮る、蒸すといった消化に負担の少ない調理法を心がけましょう。
- こまめな水分補給: 発汗で失われる水分とミネラルを補給するため、喉が渇く前に水や麦茶、スポーツドリンクなどでこまめに水分を摂りましょう。

食欲を刺激する日本の知恵
日本の食文化には、食欲が落ちた時でも美味しく食べられる工夫が凝らされています。
- 酸味の活用: 梅干し、お酢、レモン、夏みかんなどの酸味は、唾液や胃酸の分泌を促し、食欲を増進させ、疲労回復にも役立ちます。酢の物やレモンを絞った料理などを積極的に取り入れましょう。
- 香辛料・香味野菜の力: 生姜、ミョウガ、大葉、ニンニク、ネギ、唐辛子、カレー粉などの香辛料や香味野菜は、胃液の分泌を促進し、食欲を増進させるだけでなく、消化吸収の促進や疲労回復効果も期待できます。ただし、胃が弱っている場合は刺激が強すぎないよう注意が必要です。
- だしの旨味と栄養: かつお節や煮干し、昆布などで丁寧にとっただしに含まれるグルタミン酸は、適度な食欲を刺激し、ミネラルも豊富です。味噌汁や煮物、冷や汁など、だしの効いた料理は夏バテ時の栄養補給に最適です。

効率的なたんぱく質摂取のヒント
胃腸が弱っていても、たんぱく質は効率的に摂取したい重要な栄養素です。
夏におすすめの消化に優しい高たんぱく食材
- 魚介類: 消化しやすく、タウリンも豊富です(イカ、タコ、貝類など)。かまぼこは加熱不要で手軽に摂取でき、夏の疲労回復にぴったりの食材です。かつおぶしや干しエビなどの乾物も高たんぱく源となります。
- 大豆製品: 豆腐、納豆、枝豆など。植物性たんぱく質が豊富で、比較的消化に負担が少ないです。冷奴や枝豆は夏の定番メニューとして、手軽にたんぱく質を補給できます。木綿豆腐は絹ごし豆腐よりもたんぱく質が多い傾向があります 9。
- 卵: 高たんぱくで栄養価が高く、調理法も豊富です。
- 肉類: 鶏むね肉、ささみ、豚ヒレ肉など、脂肪の少ない部位を選びましょう。豚肉はビタミンB1が豊富で、夏バテ対策の定番食材として広く認識されています。
日本の伝統的な食べ方での工夫:
- 冷や奴: 冷たくて食べやすい豆腐は、ミョウガや大葉などの薬味を添えることで、さらに食欲増進効果が期待できます。
- 枝豆: ビールのお供としても定番ですが、たんぱく質が豊富で、アルコール分解にも役立ちます。
- 納豆ごはん: 炭水化物とたんぱく質を同時に摂れる手軽な朝食です。
- 朝食でのたんぱく質摂取の重要性: 体内時計を整え、日中の活動に必要なエネルギーと栄養を補給するため、朝食に炭水化物とたんぱく質をセットで摂ることを習慣にしましょう。
日本の夏の伝統食と季節の食材の活用
日本の夏の伝統食には、夏バテ対策に理にかなったものが多く見られます。
- 冷や汁、そうめん、ところてん: 宮崎県の郷土料理である冷や汁は、冷たい汁にご飯をかけて食べる料理ですが、ごま、味噌、きゅうり、豆腐、焼き魚などを含み、さっぱりとしながらもたんぱく質やミネラルを補給できます。そうめんは薬味を工夫することで栄養バランスを補えます。ところてんは海藻が原料で、地域によって様々な味付けで楽しまれ、ミネラル補給にもなります。
- 土用の丑の日など季節の行事食: うなぎはビタミンB群が豊富で夏バテ対策の定番です。瓜、うどん、梅干しなど「う」のつくものを食べる習慣もあります。
- 旬の夏野菜・果物: 冬瓜、トマト、なす、きゅうり、ピーマン、パプリカ、枝豆、スイカ、モモ、キウイなど、夏が旬の野菜や果物は、ビタミン、ミネラル、水分が豊富で、夏バテ予防に役立ちます。

夏バテ対策におすすめの栄養素と主な食材
栄養素 | 主な働き | 代表的な食材 |
たんぱく質 | 筋肉・臓器・皮膚の構成、ホルモン・酵素・抗体の材料 | 豚肉、鶏肉、魚介類(イカ、タコ、貝類、かまぼこ)、卵、大豆製品(納豆、豆腐、枝豆)、乳製品 |
ビタミンB1 | 糖質をエネルギーに変換、疲労回復 | 豚肉、うなぎ、玄米、ごま、ニンニク、ねぎ、玉ねぎ、ニラ |
ビタミンC | 抗酸化作用、ストレス緩和、鉄の吸収促進 | パプリカ、じゃがいも、キウイ、いちご、枝豆、ブロッコリー |
クエン酸 | エネルギー生成、疲労回復、食欲増進 | 梅干し、レモン、夏みかん、お酢 |
ミネラル | 体内の水分調節、血圧調節、骨・歯の形成、酵素の材料 | 野菜類、果物類、海藻類、レバー、煮干し、食塩 |
タウリン | 肝機能サポート、疲労回復 | 貝類、イカ、タコ |
夏におすすめの消化に優しい高たんぱく食材と調理のヒント
食材 | 特徴 | 調理のヒント |
鶏むね肉・ささみ | 低脂肪、高たんぱく | 茹でる、蒸す、細かく裂いて和え物やサラダに。叩いて柔らかくする |
豚ヒレ肉・もも肉 | 低脂肪、ビタミンB1豊富 | 蒸し豚、薄切りで炒め物、冷しゃぶ。牛乳や果物に漬けて柔らかく |
豆腐(木綿推奨) | 植物性たんぱく質、消化しやすい | 冷奴(薬味添え)、味噌汁、煮物。枝豆は手軽な高たんぱく源 |
魚介類 | 消化しやすい、タウリン豊富 | 刺身、焼き魚(あっさり味付け)、煮付け。かまぼこは切るだけ手軽 |
卵 | 栄養価が高い、調理法豊富 | 温泉卵、茶碗蒸し、だし巻き卵、卵とじ。納豆と合わせて朝食に |
まとめ:元気な体で夏を乗り切るための総合的なアプローチ
夏の食欲不振とたんぱく質不足は、自律神経の乱れ、冷たい飲食物の過剰摂取、ストレスなど複数の要因が絡み合って生じる複雑な問題です。これらを改善するためには、食事だけでなく、十分な睡眠や適度な運動といった生活習慣全体を見直すことが重要です。
食事においては、「1日3食、主食・主菜・副菜を揃える」という基本を守りつつ、無理なく、美味しく食べられる工夫を凝らしましょう。酸味や香辛料、だしの活用で食欲を刺激し、旬の食材で栄養と季節感を楽しみましょう。冷たいものばかりではなく、温かい料理も取り入れ、胃腸への負担を減らすことを意識してください。たんぱく質は、消化に優しい食材を選び、調理法を工夫することで、夏でも無理なく摂取できます。
夏バテは避けられないものではありません。日本の豊かな食文化に根ざした知恵と、科学的なメカニズムの理解を組み合わせて、この夏も健康的で活力に満ちた日々を送りましょう!
(文/坂内悠)
引用:
- 猛暑の中“夏バテ対策”に食べられている食材1位は「豚肉」! – PR TIMES, 7月 22, 2025にアクセス、 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000149.000058653.html
- 夏に食欲がないのはなぜ?おすすめのレシピや摂りたい栄養素・食べ物を管理栄養士が徹底解説, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.happiness-direct.com/shop/pg/1h-vol580/
- 夏バテ予防 – 白川病院, 7月 22, 2025にアクセス、 https://shirakawa.or.jp/2866.html
- 【医師監修】夏の不調は「胃バテ」が原因かも!?|胃の不調を防ぐワンポイントアドバイス, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.eisai.jp/articles/stomach_mechanism/advice02
- 夏バテによる食欲不振の原因とは?食事で工夫する方法も紹介 – ILACY(アイラシイ), 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.ilacy.jp/doctor/240724.html
- 夏バテとたんぱく質の意外な関係|KOREDAKE – note, 7月 22, 2025にアクセス、 https://note.com/koredakejp/n/n422065355cf6
- 真夏の食欲低下対策 – 【公式】体成分分析装置InBody | インボディ, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.inbody.co.jp/summer-heat/
- 【医師監修】夏バテが引き起こす「胃腸バテ」とは?|胃の不調を防ぐワンポイントアドバイス, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.eisai.jp/articles/stomach_mechanism/advice10
- その夏バテ、たんぱく不足かも!? おすすめ食材と食べ方ガイド | サカナのちから たんぱく質ヘルスケアコラム, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.kamaboko.com/sakanano/column/basic/post15033.html
- 夏バテ予防の食生活 – 茅ヶ崎市, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/kenko/1039437/1039562.html
- 夏バテの予防に効果的な栄養素・食べ物 | がんばるあなたに。疲れの情報局 | アリナミン, 7月 22, 2025にアクセス、 https://alinamin.jp/tired/natsubate-meal.html
- 夏でも食べやすい低カロリー高タンパクな食材3選 – 札幌市西区琴似のパーソナルトレーニングジム, 7月 22, 2025にアクセス、 https://follow-gym.com/blog/diary/9125/
- 夏バテを予防する食事 – 公益社団法人 千葉県栄養士会, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.eiyou-chiba.or.jp/commons/shokuji-kou/health_and_diet/natsubate_yobou/
- 一日60gのたんぱく質が摂れる夏メニュー(献立) – 鈴廣かまぼこ, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.kamaboko.com/sakanano/column/basic/post21727.html
- 夏、バテない朝ごはん|疲れに効くコラム – 大正製薬, 7月 22, 2025にアクセス、 https://brand.taisho.co.jp/contents/tsukare/83/
- 【日本の文化】食文化―日本の夏の食べ物 | 文化 | Japan Guide & Information | アクセス日本留学, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.studyjapan.jp/topics/culture/food-summer.html
- 夏(6月・7月・8月)の食にまつわる行事と旬の食材 – 茅ヶ崎市, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/kenko/shokuiku/shokutaku/kisetsu/1004607.html
- 夏至の食べ物、意味や風習とは – ホテル龍名館東京, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.ryumeikan-tokyo.jp/blog/blog_geshi/
- 夏 | うちの郷土料理 – 農林水産省, 7月 22, 2025にアクセス、 https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/season/summer.html