2025-12-12

1万歩歩いても逆効果?【中殿筋(ちゅうでんきん)機能不全】が引き起こす「お尻の揺れ」と「股関節痛」

「健康のために、毎日1万歩を目標に歩いています」

「週末はジムのランニングマシンで汗を流しています」

ご自身の身体のために時間を作り、努力を継続されていること、本当に素晴らしいと思います。

しかし、その一方で、このような「違和感」を抱えてはいらっしゃらないでしょうか?

「歩けば歩くほど、股関節の外側や膝が痛くなる」

「自分の歩き方が、なんとなく左右に揺れている気がする」

「片足立ちで靴下を履こうとすると、ふらついてしまう」

もし、一つでも当てはまるのであれば、 今のあなたにとって、「ただ歩くこと」は、健康になるどころか、関節にダメージを与える行為になっている可能性があります。

今回のコラムでは、見落としがちな「歩行における縁の下の力持ち」である筋肉【中殿筋(ちゅうでんきん)】にスポットを当て、歩行との関連性と解決策を徹底解説します。

「健康のためにもっと歩かなきゃ」という思い込みを捨て、健康的に運動を行うための「正しい順序」を一緒に学んでいきましょう。

そもそも「歩く」とは、片足立ちの連続である

ウォーキングを「両足で行う運動」だと捉えていませんか? 解剖学的な視点で見ると、歩行とは「片足立ちの連続動作」です。右足が地面に着いている時、左足は空中にあります。つまり、歩いている時間の約60%は、片足一本で全体重を支えているのです。

この「片足立ちになった瞬間」に、あなたの体重を支え、骨盤を水平に保つという極めて重要な役割を担っているのが、お尻の横にある「中殿筋」です。

お尻の筋肉といえば、後ろにある大きな「大殿筋(だいでんきん)」が有名ですが、大殿筋が「前に進む推進力」を作るエンジンだとしたら、中殿筋は「左右のブレを抑える」スタビライザー(安定化装置)です。

「中殿筋」が機能不全になると何が起きるか?

40代・50代以降は、加齢による筋力低下に加え、座りっぱなしの生活習慣などにより、この中殿筋が弱化し、「機能不全」に陥っているケースが多く見られます。

さて、このスタビライザー(中殿筋)が壊れた状態で、片足立ち(歩行)を行うとどうなるでしょうか?

1)骨盤が傾く「トレンデレンブルグ徴候」
中殿筋が働かないと、片足で立った瞬間に骨盤を水平に保つことができず、浮いている足の方へ骨盤がガクンと落ちてしまいます。これを専門用語で「トレンデレンブルグ徴候」、あるいはその予備軍としての骨盤動揺と言います。

2)代償動作としての「お尻振り歩き」
骨盤が落ちるのを防ぐため、あるいは落ちたバランスを取るために、上半身を支点側(着地している足側)に大きく傾けたり、お尻を横に突き出したりしてバランスを取ろうとします。 これが、外から見た時の「左右にお尻が揺れる歩き方」です「骨盤が安定しないため、仕方なく身体を振って歩いている」というような状態です。

3)股関節・膝への深刻なダメージ
ここからが本題です。この「お尻が横に揺れる」動作が、1万歩、つまり1万回繰り返されたらどうなるでしょうか?

●股関節へのストレス:
骨頭(足の付け根の骨)が屋根(骨盤の受け皿)に何度も不適切な角度で衝突し、股関節唇損傷や変形性股関節症のリスクを高めます。

●膝への連鎖:
お尻が外に逃げると、太ももの外側の靭帯(腸径靭帯)がパツパツに張ってしまいます。その張力が膝の外側を引っ張り、膝の痛みを引き起こします。

「健康のために」と歩けば歩くほど、中殿筋を適切に機能せずに骨と靭帯に頼った歩き方を1万回反復練習していることになり、結果として痛みや変形を加速させてしまうのです。これが、「頑張っているのに調子が悪くなる」悲しいパターンです。

なぜ女性に多いのか?

これには、女性特有の骨格も関係しています。女性は男性に比べて骨盤が横に広いため、大腿骨(太ももの骨)が骨盤から膝に向かって内側に角度がつきやすい(Qアングルが大きい)傾向があります。 この構造上、もともと中殿筋にかかる負担が大きいのです。そこに、加齢による筋委縮や、デスクワークで長時間お尻を圧迫し続ける生活が重なることで、中殿筋が機能不全に陥ってしまいやすいのです。

「歩く」前に、「整える」ことから始めよう

もし、歩行時に股関節の違和感や膝の痛みがあるなら、勇気を持って一度ウォーキングの量を減らしてみましょう。 今のあなたに必要なのは、距離を稼ぐことでもカロリーを消費することでもなく、眠っている中殿筋を目覚めさせ、「骨盤を安定させる機能」を取り戻すことかもしれません。

●自宅でできる中殿筋覚醒エクササイズ:ヒップアブダクション

1.床に横向きに寝ます。下になった腕を枕にするか、クッションを使います。

2.下側の股関節と膝関節をも90度くらいに曲げ、上側の脚はまっすぐ伸ばしておきます。

3.骨盤が後ろに倒れないように、上の脚をゆっくりと天井に向かって上げていきます。

注意点(超重要): 膝を上げるとき、骨盤が一緒に後ろに倒れないようにしてください。骨盤は床に対して垂直をキープします。お尻の横に力が入っている感覚があれば正解です。

回数:左右それぞれ10~15回×2〜3セットを目安に体力に応じて調整してください。

痛みなく、颯爽と歩ける未来のために

「中殿筋」という小さな筋肉が、これほどまでに歩行に対して影響を与えているということはびっくりしますよね。しかし、私たちの身体はすべて関連し合っています。一つの筋肉の機能低下が、ドミノ倒しのように膝や腰の痛みとなって現れます。

運動することはとても大切なことです。ですが、その前に一度自身の身体の状態を知り、しっかり整えることから始めてみましょう。

あなたの健康のための努力が報われるよう、しっかりとした「準備」が大切です。

(文/辻)

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